命がけの占い勝負! 『VICE-ヴァイス- 孤独な予言者』 酒井日香




"VICE-ヴァイス- 孤独な予言者" (酒井 日香)


この本は『本が好き!』から献本いただきました。


 


TVはもちろん新聞や雑誌、ネットも含めて外せないコンテンツは『占い』だろう。朝の情報番組からJRのトレインチャンネルまで巷には占いが溢れている。そして新宿西口に夜のとばりに包まれる頃、あちこちで占い師が出現してくる。本書『VICE 孤独な予言者』のプロローグもその新宿西口の描写から始まる。


新宿西口で営業している占い師にケチをつけ、丸めた一万円札を置いていく。こうして登場するのが郷原悟 天才占い師である。ヤクザのフロント企業である平安ファイナンスの顧問を務め、占い賭博という大きなシノギを作る中心人物。平安ファイナンスは普通の消費者金融業だけではなく、時として大きな借金を背負わせ、闇のイベント『占い賭博』の出場者をつくる。そのメンバー選考にも郷原の占いが力を発揮する。『星』が告げ、それを郷原が読む。本番の『占い賭博』では借金を背負った二人だけの勝負ではなく、郷原自身も命がけで勝敗を占い、占いが外れれば後がない。それがどんな仕掛けかは読んでのお楽しみ。


 


本書の醍醐味は占い云々ではなく、詐欺、高利貸し、脅し、賭博といった裏社会のストーリーを、占いをモチーフにすることで軽快に読者を楽しませながら展開していく点である。決して高い文章力や高度な構成に支えられているわけではないが、どこか登場人物の行動や言動に魅力を感じる。小説としての完成度ではなく、マンガの原作のような感じで。個別のエピソードはよく練られているんだけど、全体のバランスが悪く、メインの『占い賭博』部分がかなり急ぎ足になっている。途中の描写にページを割きすぎているんだろう。もう少し時間をかけて手を入れればもっと良くなった気がするのでちょっとそこは残念な部分。


アニメかVシネマの原作として考えるとストーリーは面白いと思う。そういう視点で読むと荒さはあるものの楽しめる一冊ですよ。