待ちに待った『氷の世界』、その楽しみ方




"氷の世界DVD BOX" (ポニーキャニオン)


僕はこのドラマをオンタイムで観たことがほとんどない。全くないわけじゃないけど、ストーリーが分かるほどは観ていない。そして、手元には『シナリオ集III 氷の世界』の初版本があり、これを読んで何度も全ストーリーを『観てみたい』と思っていた。


脚本、小説を問わず野沢尚氏の作品は大好きで、中でも『眠れる森』は映像としても最高傑作だと思っている(決してミポリンが好きなだけじゃなく)。複数の伏線を張り巡らせ、視聴者や読者をミスリードするだけではなく、それぞれの登場人物の心境を浮き彫りにさせて感情移入させる技術は秀逸だと思う。『眠れる森』で確立されたこのフレームワークを更に熟成させたのがこの『氷の世界』だろう。もしかしたら、プロデューサーが同じ喜多麗子氏なので敢えてそうしているのかも知れない(仲村トオルの起用に関しても)。


 


あらすじ


松嶋菜々子演じる江木塔子は5年間で3度恋人を失う。それも相手は必ず『死』をとげ、更に死の直前には生命保険を解約するという共通点まで一緒に。外資系保険会社の調査部に勤める廣川英器(竹野内豊)は高校教師の転落死の調査を進める中でこの事実を掴む。真実を突きとめるために江木塔子に接触し、やがて江木塔子の魅力に溺れていく。


一見、保険金殺人の失敗に見える一連の事件に興味を持ったのは廣川だけではなく、町田署刑事課課長の烏城(仲村トオル)と学生時代から恋心を寄せる迫田正午もそうだった。3人が変わった形で協力しながら事件の真相に迫れば、やがて事件は新たな局面を見せて不幸な結果を招く。


事件の真相は最後まで謎に包まれたまま最終回を迎える。


 


映像と音楽


氷の世界』の映像は『眠れる森』同様に現在と過去を織り交ぜながら展開される。そこに効果的な音楽を付け、TVドラマらしからぬ体裁に仕上がっている。バックに流れる音楽はまるで登場人物の気持ちの揺れ動きを表現しているかのような効果をもたらし、心の『静』と『動』をセリフとは別の表現方法として利用している。これまでの効果音やテーマ曲のような使い方ではなく、まるで言葉のような使われているのが特徴でもある。そのため、ドラマよりもより映画的な雰囲気が伝わる。


 


ドラマの楽しみ方


シナリオ集にはシナリオの前に短編ぐらいの長さの文章が存在する。登場人物の過去の話だ。一部はドラマの映像として利用されているものの、この文章を読んでからドラマを観るのとドラマを観てこの内容を知るのでは映像の価値が変わってくる。野沢氏は登場人物の定義をこの短い文章で表現し、制作者たちの意識を合わせたのではないかと想像する。ただのTVドラマではなく、野沢氏にとっては『創作物』であり、シナリオを書きながらイメージとしての描いていた映像をぶれさせたくなかった、そんな作り手の『思い』を感じる。是非、映像だけではなく、シナリオ集も併せて読みながら『氷の世界』を堪能して欲しい。




"氷の世界―シナリオ集⟨3⟩ (幻冬舎文庫)" (野沢 尚)