ポップなミステリーはいかが? 『上手に人を殺すには』 マーガレット・デュマス




"上手に人を殺すには (創元推理文庫)" (マーガレット・デュマス)


この本は『本が好き!』から献本いただきました。


 


普段、ポップなミステリーを読まないけど(あまり面白いと思わないので)これは違った。トリックで魅了するのではなく、登場人物のキャラの組み合わせで面白さを創り出している。


主人公のチャーリーはセレブな女性。新婚間もないチャーリーのご主人は元諜報員で、現在はコンピュータセキュリティのスペシャリストが表の顔。しかし、本当の姿は分からない。


チャーリーの友人たちもユニークな仲間たちで、劇団の芸術監督 サイモン、女性学の准教授 ブレンダ、ファイナンシャルアドバイザーのアイリーンがチームを組んで殺人事件の解決に挑む。今回の話はソフトウェア企業のCEOがチャーリーの夫 ジャックに仕事の依頼をする際にチャーリーが同席したことでストーリーが始まる。このソフトウェアの会社はアプリケーションやゲームを作っているだけではなく、開発ツールを作っていて、世の中のアプリケーションのほとんどがそのツールで作られているという想定。イメージ的にはマイクロソフトの.NETが今以上に使われているような感じだろうか。CEOには結婚を約束していた女性がいて、その女性 クララが不審な死を遂げる。


 


この小説の大きな特徴はディテールを書きすぎないところ。舞台全体を大きく捉えて、登場人物のキャラを活かしながらすべてを見せない、というのがうまい。著者は兼業作家でソフトウェア会社に勤めているらしいが、今回のストーリーでもその知識は十分に活かされている。そんな場合、とかく専門的な描写に陥りがちだけど、ディテールを描きながら万人が分かるところで止めているところは感心させられる。得意分野で自己満足に陥らない。


 


この作品はシリーズ2作目。本当に楽しむのであれば、前作『何か文句があるかしら』を先に読んだ方が良さそうだ。しかし、文化の違いかこういう作品は日本人の作家では見かけない。安っぽくなく、ウイットに富んだ会話で最後まで楽しめる、作家の力量だけではなく過ごしてきた文化の違いを感じる。




"何か文句があるかしら (創元推理文庫)" (マーガレット・デュマス)