ファージング最終作は感動の結末 『バッキンガムの光芒 (ファージングIII)』 ジョー・ウォルトン




"バッキンガムの光芒 (ファージングⅢ) (創元推理文庫)" (ジョー・ウォルトン)


この本は『本が好き!』から献本いただきました。


 


ファージング三部作を読み終えて作品としての素晴らしさとラストシーンが期待以上だったことに満足感で一杯である。今回も前作、前々作同様に二人の視点で物語は展開していく。一人はカーマイケル、そしてもう一人はエルヴィラ・ロイストンで、エルヴィラはかつての部下ロイストン巡査部長の娘であり、前作で殉職した後にカーマイケルが養女として引き取っている。


 


舞台は前作から10年後の英国、カーマイケルはスコットランドヤードの警部補から監視隊(ザ・ウォッチ)というゲシュタポのような組織の責任者として君臨している。前作の終盤に首相のノーマンビーから依頼され、今の立場に着いた訳だが職務を遂行しながらもその立場を利用して裏の組織も指揮する。裏の組織はインナー・ウォッチと名付け、罪なきユダヤ人の国外に逃がす手伝いをしている。


英国内は戦後の雰囲気になりつつもファシズムはより進行し、国内のあちこちにその綻びが見え始める。ヒトラー率いる第三帝国に比べればまだまだ英国のファシズムは緩い段階ではあったが、国民の多くが心のどこかで英国らしさを望みながらも失望に傾いていた。そんな中、現政府に不満を持つ元国王 ウィンザー公の企みの先の出来事にエルヴィラが巻き込まれてします。そして、エルヴィラを助けるためにカーマイケルが動き、役者が舞台の中心への揃っていく。前作までに比べると今回の各登場人物の意志や言動はかなり強みに描かれている気がする。カーマイケルもそうであり、カーマイケルのかつての上司 ペン=バーキス、あるいは首相のノーマンビーも強行で、かつ相手の弱みを握り、そこをついて恫喝するような手口が多い。これはファシズム政権の時間の進行を意図したものにしているのだろう。組織のヒエラルキーは絶対で、現在の立場を維持するには勤勉さや能力だけではなく、情報を上手に使ったものだけが許される。情報に対する意識は異常に神経質になり、本作の会話のシーンではその辺の様子も綿密に書かれている拘りようである。


 


本作の重要な部分を占める部分としてエルヴィラの成長が鍵になっている。前二作の中で出てくるエルヴィラは可愛く、事件を解決した際に父の上司であるカーマイケルから何かしらのお土産をもらえることを楽しみにしている、というどこにでもいる少女を描いていた。10年が経過し、貴族の家に身を置き、女学校で花嫁修業をしながらレディとしての準備をしているエルヴィラはオックスフォードの入学も許可される頭脳を持ち合わせた女性に成長している。知識ではなく、経験や想像から何をすべきか、何が最適な解なのかを考えながら行動し、そして強い意志を持っている。


そしてレディとしてデビューするためのイベントで、エリザベス女王と直接話をするエルヴィラのシーン読んだ時に本書のタイトルの意味に納得し、そしてエリザベス女王の演説は今の日本をごたごたの政治を考えさせられるシーンでもある。


このファージング三部作に出会えたこと、三冊を通して読めたことに感謝すると共に、今年のNo.1と言っても過言ではない。


 


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