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かつてのグルーヴ感がないじゃないか 『ボーダー 』垣根涼介

Book


"ボーダー―ヒートアイランド〈4〉" (垣根 涼介)


垣根涼介、どうしたんだ?』が読み終わった時に感じた最初の感想。クルマやバイクを表現する時の独特の言い回し、細部を説明するこだわりがなく、全く精彩に欠く作品になってしまっている。『ヒートアイランド』の話にデビュー作『午前三時のルースター』の話を融合するアイデアは良かったけど、時間軸を合わせて統合しただけに終わってしまっている。


『楽しめたか』と聞かれれば、十分に楽しめたんだけど、完全に『らしさ』が無くなってしまっている。きっと過去の作品でファンになった人たちは、楽しみにしていた本作を読み始め、大きなショックを受けたことだろう。


 


アキが『雅』を抜け柿沢、桃井と裏家業の一員となり、いくつかのヤマを踏んだ後のエピソードになっている。心が空白状態だったカオルは受験勉強をし、東大に入る。そこでお互いに共通項を感じる中西と出会う。カオルは中西を経由して、かつて自分たちが渋谷でやっていた『ファイトパーティー』が復活していることを知り、さらにそのパーティーの主催者は『雅』を語っていた。ニセ雅がきっかけになって、かつて封印した事件が表沙汰になることを恐れたカオルはアキに連絡をとり、そして一夜限りの『雅』が復活する。


 


こう見るとストーリーとしては全然悪くないし、今までにない『カオルの視点』での展開、アキと雅のメンバーの間で交わされる会話で表現された『本当の決別』など話の要素は十分満たしている。でも、読み手には物足りなさが残ってしまう。これは何なのか。


垣根涼介作品の醍醐味は『これでもか』というディテール描写である。そのものの名称だけを知っているのではなく、クルマであれば特徴、特性、そして音、振動など言葉で表現しにくいものまで言葉にしてしまう執着心。若かりし頃、少しでもクルマをいじった経験、いじったクルマに乗った経験が心の中で共振し、ストーリーとは別のグルーヴ感が生み出される。そう『魂は細部に宿る』を小説の中で実現したのが垣根流。しかし、今回の作品はその執着心がない。体はなしているものの、垣根涼介でなくても書けるレベルで止まっている。ファンが期待しているのはストーリーの面白さではなく、グルーヴ感を感じる作品なのである。元の垣根涼介として帰ってきて欲しいと願うばかりである。