是非、数学が苦手だった人にも読んでもらいたい 『数学でつまずくのはなぜか』 小島寛之


"数学でつまずくのはなぜか (講談社現代新書)" (小島 寛之)


近頃、『算数』とか『数学』という単語に弱く、ついつい手にとって買ってしまう。別に数学にコンプレックスがあるわけでもなく、逆に算数、数学とも得意な方だったので本書のタイトルは正直あまり理解できなかった。つまり、『つまずく』理由が無かったし、つまずかなかった。それというもの、小学校に上がる前から親戚の叔父さんを交えて花札をしていたので(もちろん、賭けて)瞬間的に計算する力や開けられてる札から残りを推測し、良い札が来る確率を考えていたからだと思う。


 


本書のユニークなところは数学者ではなく、経済学の先生が数学について書かれている点だろう。だから、数学だけのアプローチではなく、哲学や歴史に紐付けて話が展開されている。特に早い段階で『アフォーダンス』の概念を説明し、随所でこの『アフォーダンス』と結び付けながら話を展開していることで今までとは違う『数学』の一面を垣間見ることができる。『アフォーダンス』について著者が書いている部分を引用すると、



認知科学の最先端の考え方に「アフォーダンス」というものがある。これは非常にわかりにくい思想でありながら、とても示唆的なものだ。


アフォーダンス」とは、ひとことでいうと、「生物は、外側の環境を信号として自分に取り込み、その信号を情報に交換して適応するのではなく、そもそも外側の環境そのものに情報が実在している」、という考え方である。


平たく言えば、人がイスに自然に座るのは人が『座る』という行動を起こすのではなく、イスそのものに『座らせる』という情報があり、人はその情報を受けとって結果としてイスに座る、という行為に結びつく、という考え方。


また本書の中では定理やロジックだけで論破するような導き方ではなく、実生活の中でどう活用されているか、という点に注力していることも特徴になっている。たとえば、『負』の数というのは商業では常識であった(つまり借金のこと)という説明であったり、代数式では図形を使って分かりやすくしている。二次式の展開と因数分解を図形で表現すると非常に分かりやすいことには驚いた。ちなみに僕は因数分解の時に一瞬、理解に苦しむ時があったが、『奇跡の数学』という本でクリアした記憶がある。

"奇跡の数学―中学の基礎が読むだけでわかる (ノン・ブック 84)" (入江 伸)


 


代数に始まり、幾何、文章題、関数と進み、その延長で微分まで無理なく理解できると思う。要は「数学とはこういうものだから・・・」という押し付け型ではなく、物語仕立てやその背景(歴史)、実社会での利用シーンなどと結び付けながら教えられれば数学に対してネガティブになる人は少なくなるんじゃないのかな。そういう意味でも本書は貴重は作品であり、何度でも読み返してみる価値がある。