親子って、家族ってなんだろう 『星がひとつほしいとの祈り』 原田マハ


"星がひとつほしいとの祈り" (原田 マハ)


原田マハの最新刊は親子や家族について考えさせられる7つのお話。そのどれもが読み終わった時に立ち止まって振り返ってしまう。まるで、もう一度自分の心の中にしみこんでいくように。


原田マハの作品は毎回新しい分野にチャレンジしているようで、今回も短編7作の特徴は回想シーンを盛り込み、この回想シーンが物語の重要な部分を担う形になっている。また最初の作品『椿姫』以外はすべて地方が舞台になっていて著者自身の思い出の一部が作品のシーズになっているのかも知れない。


 


『椿姫 La traviata』


アンバランスな関係の中で身ごもった新たな命を絶たなければならなくなった時に出会った若い二人。ガラス細工のように壊れそうな心にも新たな決意に少しばかり浸ってしまう香澄。香澄が一番欲しかったのは仕事の成功や夢ではなく、ちょっとした頼れる『場所』だったのだろう。


 


『夜明けまで Before the Daybreak Comes』


7作の中で一番好きな作品。女優の娘として生まれ、育ったひかる。母の最後の願いは骨の一部を大分県日田に「夜明」という駅に連れていって欲しい、ということだった。これまで母の過去について聞いてこなかったひかるはそこで初めて若かりし頃の母と自分の出生の秘密を知る。初めて母に感謝した瞬間だったのではないだろうか。


 


『星がひとつほしいとの祈り Pray for a Star』


コピーライターとして仕事をしている文香は仕事にかこつけて不倫相手の上司と松山に出張する。せっかく出張に夏休みをくっつけて松山に来たにもかかわらず、結局一人旅になってしまう。疲れを癒すために呼んだマッサージ師から人生の縮図のような話を聞く。しかし、ホテルのスタッフもマッサージの予約もキャンセルも聞いていないという。『夢』と『夢』を掛け合わせたような物語。


 


『寄り道 On Her Way Home』


喜美と妙子は大学のゼミ仲間。40歳を越えた二人ともどこかいびつな人生を歩んでおり、二人で出かける旅はささくれだった日常に少しばかり潤いをもたらす。白神山地に向かうツアーで母の言葉を思い出す。『旅は人生の寄り道』。


 


『斉唱 The Harmony』


14歳の娘 唯を持つ母 梓は女手一つで娘を育ててきた。母子家庭だからか唯は口数も少なく、どこか斜に構えた生き方をしている。そんな中、学校の体験学習の一環でトキの生態調査を学ぶため親子で佐渡島に行く。トキを守り続ける親子を通して、二人は『親子の意味』をちょっとだけ学んだ。


 


長良川 River Runs Through It』


結婚直前の麻紀は婚約者の章吾と母の3人で長良川を旅する。1年前、母 堯子は夫の芳雄と一緒にこの地を訪れているが、半年前に芳雄は他界している。川の研究を続けてきた芳雄は一番好きな川 長良川に新婚旅行で堯子を連れてくる。この旅行は堯子にとって芳雄との本当の決別だったのだろう。


 


沈下橋 Lorelei』


この話は酒井法子の事件がモチーフになっているんだろう。義母 多恵は四万十川近くで地元の食材を使った食堂で働いている。女優の阿藤由愛は大麻事件を起こし、多恵を頼って四万十に。四万十川に掛かる沈下橋に親子の姿を感じる。きっと由愛は罪を償って四万十の地でもう一度親子としての人生を過ごすことだろう。