やさしそうに見えて実は相当難しい文章 『イニシエーション・ラブ』 乾くるみ


"イニシエーション・ラブ (文春文庫)" (乾 くるみ)


乾くるみGoogleで検索するとこの『イニシエーション・ラブ』の・・・という説明ばかりだったので、先に『イニシエーション・ラブ』を読むことにした。やっぱり、こういう順番って大事だよね。


 


さて、誰に一番受けるか、を考えると間違いなくバブル時代に学生〜20代だった世代。つまり今は40代半ば〜50歳ちょっとぐらいだろうか。もっと分かりやすく言えば、映画『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』を面白い、と思った人は楽しめるでしょう。


 


この本にはいろいろな細工がされていて、話全体の前編、後編を『Side-A』、『Side-B』と表現していて、レコードやカセットテープで育った世代には馴染みがあるものの今となっては『死語』を使っている。また各章のタイトルには曲のタイトルが使われてる。



Side-A

Side-B


*歌手名は追加しました。


このタイトルは適当に付けられている訳ではなく、歌詞の通り、とまではいかないもののモチーフは一緒。


 


この『イニシエーション・ラブ』が評価されるポイントは恋愛初体験の時にしか感じ得ない心の動きを余すことなくストーリーに盛り込んでいることだろう。読めば10代の頃の気持ちを掘り起こすことは今でもできるが、この文章を書け、と言われたら10代でない限り難しいだろう。一方、10代の時にはこの文章力が備わっていないので、現実に文章とするのは如何に難しいことかということが分かるだろう。


もう一つ面白い特徴があって、それぞれのキャラクターの色付けがそれほど強くない。それは会話の中で出てくるTV番組(男女七人夏物語、男女七人秋物語など)の色を自然に利用されるようにしているのだろう。


ぱっと見ると甘酸っぱい青春小説に見えるこの作品だが、実に精巧に構成された作品だということがよく分かる。意外としたたかで、腹黒い作家なのかも知れない。冒頭に書いたレンジの人には一度読んで欲しいな。