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悪魔のような作品かも知れない 『ダーティ・ワーク』 絲山秋子


"ダーティ・ワーク (集英社文庫) (集英社文庫 い 66-1)" (絲山 秋子)


絲山秋子氏の作品はこれが初めて。何で買ったんだろう、と今でもきっかけが思い出せない。装丁でもなく、帯買いでもない、でも無意識の中で手にとってレジに並んだわけである。読み終わった後、悪くないが圧倒的な満足感を得た訳じゃない。


 


形としては連続短編だけど、最初はそんな印象を与えない。一番の原因は『私』が変化していくからだ。第一話の『worried about you』では『私』が熊井望というギタリストで、全体の中心人物になる。音楽にのめり込んでいる印象は無いものの職業として音楽を選んでいる。高校時代のバンド仲間『TT』には今でも恋愛感情を持っていながら時間の流れに身を置いている。


第二話では輸入車の広報を担当している高田貴子が『私』になる。だけど、貴子=『私』になるにはちゃんと中身を理解しながら読まないと分からない。貴子の義姉『麻子』は謎を匂わせつつ登場する。実際、これらの登場人物は一つに収斂していく。


 


この作品はミステリーとは違った意味で登場人物の人間関係が重要な構造になっている。だから読み進めながら戻って確認する作業が必要になる。かといって、話が途切れてしまうわけではない。そしてこれも特徴かも知れないけど、書かれているエピソードは意外と普通に転がっているような出来事の連続である。つまり、『日常』のいくつものピースを組み合わせてジグソーパズルのような体裁になっていて、最後に完成するような仕掛けというわけである。


ページ数のわりに相当考えられたプロットを準備して書かれている感覚が強い。一方で、その技術に溺れることなく文章が成り立っている。作家としても腕前は確かなんでしょう、でも気持ちが伝わってこない。好みの問題かも知れないけど、僕は野沢尚の『ラストソング』に軍配を上げる。でもこの『ダーティ・ワーク』の恐ろしさは時間が経ったらまた読んでみよう、という気持ちにさせているところ。そこまで計算されつくしたプロットだったら本当にビックリ。でも、解説の佐々木敦氏は『各自二度三度して確認してください』と書いていることを考えると強ち狙って書いているのかも知れない。まるで悪魔のような作品にさえ感じる。