不死身の薬の開発に隠された秘密 『ウォームハート コールドボディ』 大沢在昌


"ウォームハート コールドボディ (角川文庫)" (大沢 在昌)


これまでに大沢在昌氏の作品はほとんど読み尽くしている中で数少ない未読の作品がこの『ウォームハート コールドボディ』だった。大沢氏の作品に限って言えば、未読の作品はEvernoteにメモってあり、見つけたら購入することにしている。が、元々講談社文庫で発売されていたこの作品は人気がないのか、ほとんど書店で見かけることがなくそのまま時間だけが過ぎていった感がある。この度、角川文庫の新刊でリリースされたので読んでみることにした。


 


製薬メーカーに勤める主人公 長尾太郎は仕事の途中でひき逃げにあい、自分が勤める製薬メーカーが秘密裏に開発をしていた薬 FRGD202LVの実験台となる。FRGD202LVは死んだ人間の再生する薬で、一定時間ごとに同薬を摂取し続けなければならないが生き続けることができるものである。正確には甦らせるのとはちょっと違い、肉体を腐食させずに維持し、元々の肉体が持つ能力を利用することができる、と言った方が近い。FRGD202LV以外は必要とせず、睡眠も不必要。心は存在するものの、痛みなどは全く感じない。つまり、肉体的には死体の状態である。


もし仮にこのような薬が存在すれば、ガスや放射能などがあり、人間がそこで作業するには不向きな場所での作業ができることになるが、そういった目的で開発されたわけではなく軍事目的、すなわち『死なない兵士』を作るための研究だったのである。そのため、当初はやくざとの対決という展開から、テロリスト、武器商人、そして国防組織との対決とスケールアップしていく。


悪くはないけど、僕としては『ちょっとね・・・・』というのが正直な感想。大沢氏の作品は当たり外れが結構あるので、この手の作品が好きな人には満足かも知れないけど。『天使の牙』や『天使の爪』が面白い、と思った人には満足してもらえると思う。


 


後半に出てくるこのセリフだけはちょっと別格だった。



人間は死があるからこそ、多くのものを恐れた。また、それによって宗教も出現した。だが、死人を甦らせる薬が売りだされたら、どうなるか。たとえばそれがひどく高価だったら、金持ちは死んでも行き続けられ、貧乏人は死ぬしかない。あるいは、広く世の中に行き渡ったら、この世は、生きている人間と死んでいる人間の二種類で溢れかえる。人口の問題だけじゃない。死人と生きている人間では、考え方がまるでちがう。(中略)生と死の問題は、生きとし生けるものすべてにとっての、絶対的なルールなんだ。その薬は、それを破壊する。」


キャラクターを通して語られた大沢氏の価値観だろう。