『賢者はベンチで思索する』のその後はいかに・・・ 『ふたつめの月』 近藤史恵


"ふたつめの月 (文春文庫)" (近藤 史恵)


近藤史恵氏の作品の多くはどこかほのぼのした空気が漂っている。本作『ふたつめの月』は『賢者はベンチで思索する』の続きに位置する。過去のブログを見るとちょうど一年前に前作を読んでいるようだ。本作は特に前作の続きだから買ったわけではなく、『近藤氏の作品なんだ・・・』程度の認識で手に取り、中身も見ずにそのままレジに持っていった。


 


主人公の久里子はフリーター生活にピリオドを打ち、正社員になるや否やリストラにあってしまう、というハプニングから始まる。会社都合によるリストラにショックを受けるが、実はそのリストラ劇には別の思惑があり、久里子はその被害者となってしまう。何の疑問も持たずに会社を去った後、かつての同僚からもたらされた言葉を繋ぎ合わせると謎が深まっていく。どちらかと言えば、あまり積極的な性格ではない久里子は疑惑を抱えながらうじうじとした生活をしていると偶然にも謎の老人 赤坂に出会う。赤坂とは前作『賢者はベンチで思索する』のメインの話でもある誘拐事件に絡んだ人物である。誘拐といってもお互い合意の上なので犯罪扱いになっていないが、警察に言わせれば赤坂は詐欺師とのこと。しかし、久里子にとってはいつも何かしらのアドバイスをしてくれる貴重な友人でもある。


 


普段に生活に潜む些細な謎を物語にしていることを考えるとこの作品もミステリーの部類に入ると思うが、誰一人として死ぬこともなく、不幸になることもない。それでも物語を成立させてしまう近藤氏はまるで手品師のようだ。さらに謎解きと並行して、久里子の恋愛も展開させ、ニートだった弟も大学生になり、兄弟の会話を見る限り、人として成長させている。きっとこのシリーズはまだまだ続き、近藤氏の中でも重要なシリーズになっていくんだろう。


 


タイトルにもなっている『ふたつめの月』は単にミステリーだけではなく、次に繋がるいくつも伏線が鏤められている。もしかしたら次は赤坂自身の謎解きがあるかも知れない。


このシリーズは現実の世界を一生懸命生きる『普通』の人たちの成長ラインに謎というスパイスを振り、ミステリーに仕上げている。ちょっと石持浅海氏を思い浮かべる感じか。


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[Book]「賢者はベンチで思索する」 近藤史恵 2009-05-29