複数回読むことで浮かび上がる本当の意味 『告白』 湊かなえ


"告白 (双葉文庫) (双葉文庫 み 21-1)" (湊 かなえ)


『本が好き!』サイトから献本いただきました。


単行本の時に一度読んでいるので全体のストーリーは理解した上で、もう一度冷静な頭で読み返してみた。中学校の終業式の日に担任である森口悠子の口から発せられた『愛美は事故で死んだのではなく、このクラスの生徒に殺されたからです』という『告白』から始まることでこのタイトルが付けられたものだと思っていました。しかしそうではなく、それぞれの人物の『告白』で綴られたストーリーだから、このタイトルなんですね。つまり、このオープニングシーンの描写があまりにもインパクトが強いためにこのイメージに引きずられてしまう可能性を持っている、ということが言える。


 


ストーリーは、担任の森口悠子、学級委員の美月、下村直樹の姉、直樹の母、渡辺修哉、下村直樹本人の『告白』で構成されている。それぞれの主張、それぞれの思いが語られ、ストーリーが立体的に見えてくる。森口の『告白』によって影響を受けた人たちは実は森口の復讐劇の役者に過ぎないのではないか、という印象を持たせる。自分の娘を殺された復讐を自分の手を汚さずに、ジワジワと自滅するように誘導していく。初めからすべてのシナリオが出来上がっていたわけでもなく、状況を見ながら(犯人に)最適な復讐に修正していく。教師という聖職者という立場を意識しながら、まるで悪魔のようなシナリオを考え、実行していく。直接手を下す部分もあり、駒にしたてた人物を洗脳しながら、一番の弱点を見つけ、そこを突いて心を壊していく。一番大事なものを奪われた森口は、一番大事なものを失うように仕向ける、本当に悪魔のような復讐。


少し距離を置いて考えると、どんな人にもこの悪魔のような心は持ち合わせいて、普段は理性がブレーキを掛けているが、何かの拍子にそのブレーキが外れ、悪魔の心が前面に出てくることを表現したかったのではないか、との推測もできる。そのために複数の人々の『告白』で綴るストーリーに仕立てたのではないか、と思ってしまう。もしそこまでを意識して書かれたストーリーだったら本当にレベルの高い作品と言えよう。


 


まもなくこの作品の映画が始まる。主人公の森口悠子役には松たか子が抜擢されている。キャラクターとしてはイメージ通りのキャスティングだと思う。『告白』という作品をどう映像化したのか非常に興味深い。


この作品は1度だけ読んで楽しむのではなく、何度か読んで理解する必要があるものだと思う。それだけの価値があり、奥行きがある。そんな機会をいただくことができたことに感謝。