完成度の高さをまざまざと見せつけられる 『ガラスの麒麟』 加納朋子


"ガラスの麒麟 (講談社文庫)" (加納 朋子)


あちこちのレビューを見ると賛否両論分かれた評価があるようだ。それはこの作品が「日本推理作家協会賞」を受賞しているからかも知れない。「日本推理作家協会賞」はプロの作家がプロの作品を選ぶ栄誉ある賞だが、一般の人よりも多くの作品に触れているプロの作家は一般の人とは違う視点で見るだろうから、この賞を受賞しているかといって必ずしも面白いとは限らない。が、少なくとも僕は大満足だったし、非常に高度な技術を用いていることも分かる。彼女の作品全般にいえることは、相当入念に全体の構成を考えられていていながら技術だけに頼っていないことが挙げられる。連作短編、安楽椅子探偵的なアプローチをそれ以上に昇華してレベルの高い作品に仕上げている。また人が死ぬこと以外は比較的身近な出来事を多く用いるのも彼女らしさのような気がする。


 


本作は女子高生が通り魔に殺害されるシーンからスタートする。美人の彼女は学校ではどこか女王様的な立場でありながら、心は裏腹に空虚で、そんな彼女は物語を書く。その作品の一つが『ガラスの麒麟』。自分に近いキャラクターが物語の主人公。ここには思春期の心の状態の描写とミステリーとしてのキャラクター付け、見た目と心のギャップといった複数の意味を『ガラスの麒麟』に持たせている。しかも、非常に整理された形で書かれているから誤解無く読み手に伝わる。


探偵役は養護教諭の神野菜生子。彼女は単に探偵としての役回りだけではなく、過去の出来事で心に傷を負い、今も足を引きずる癖が直らないでいる。そんな彼女は学校の生徒から見ればもっとも身近で、『仲間』を感じる大人である。主人公の一人、殺害された女子高生の友人の野間直子、そしてのその父親の効果。


エピローグの最後の会話がもう一つのこの作品の面白みにになっている。でも、その予感は最初の話に伏線が張られている。


よく練られたプロットを高い文章力で作り上げられている。もしこの作品の弱点を挙げるとすれば、話を展開している目線が誰なのか曖昧な部分が多いことだろうか。読み手はその度に今は誰の目線なのかを意識しながら読み進めていく必要がある。これは作品のスピード感を失わせ、『連作』の良さを壊している気がする。