傑作! 『ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント』 朱川湊人


"ウルトラマンメビウス アンデレスホリゾント" (朱川 湊人)


あなたにとって『ウルトラマン』って何ですか。僕には保育園を病気で休んだ時に見る『ウルトラセブン』の再放送が楽しみだった。従兄弟と一緒に作ったマクマライザーは初めてのプラモデルだった。憧れのクルマ、ポインター号。エース、ジャック(帰ってきたウルトラマン)、タロウ、レオぐらいまでは見ていた気がする。もし、そんな思い出があるならこの小説は半分楽しめる。


大人になってから息子が同じようにウルトラマンに興味を持ち、一緒にウルトラマンメビウスを見た。不覚にも涙してしまうシーンもある。そんなこともあり、メビウスは特別な作品でもある。そんな人なら本書は絶対に読んだ方がいい。非常に高い完成度と『思い』で作られていることに気付かされるはずだ。


 


  1. 魔杖の警告

  2. ひとりの楽園

  3. 無敵のママ

  4. 怪獣遣いの遺産

  5. 幸福の王子


この五編のストーリーから成り立ち、TV放送されたタイトルの他に二編が加えられ、全体としてサーガのように作られている。TV放送には登場しない『ハルザキカナタ』という研修生が登場し、全体は彼の視点で語られている。それぞれの言葉やエピソードに説明がつくようなことはなく、過去のウルトラシリーズメビウスを知っている前提だからストーリーは本当に流れるような感じである。TV放送で明かされる『謎』の部分は『謎』のままで残し、そのリアクションまでも映像として想像がつく。そういう意味ではTVのキャスティングは本当にフィットしている。読みながら自然とサコミズ隊長は田中実のイメージだし、ミライは五十嵐隼士リュウ仁科克基で、TV版の映像のせいだけではなく、イメージとキャスティングが完全に一致している。それだけ『ウルトラマンメビウス』を制作したスタッフの思いが強いのだろう。映画版を見てもそれはすごく感じた。


 


本書は一貫して『ハルザキカナタ』の『目』を通して描かれていて、宇宙でその命を絶った父、その事実を受け入れることができない母を持つカナタが『異星人』に心を開いていく心の変化は大人だけではなく子供と共有すべきテーマかも知れない。メイツ星人ビオと対峙することが無かったらカナタは本当の大人になれなかっただろうし、越えるべき壁を乗り越えた時、そこには越えた者同士だけが通じ合う『信頼』が生まれる。本書が素晴らしいのは敵vs味方という単純な構造ではなく、『負』の部分も受け入れながら生きていく姿を描いているところに価値があるんだと思う。