キャスティングが素晴らしい 『ハゲタカ』

映画館で観るのを逃したのでDVDで観ました。正直、日本の映画で、特に先にTVドラマになったものを映画にしたものであまり期待していなかったんだけど、よくできています、この映画。『ハゲタカ』は単行本で2004年だったか2005年に読んだ時からすごく好きな作品で、NHKのドラマの時にはちょっとだけ残念な気持ちだった。ドラマという予算枠の中でこのスケールを表現することは厳しいことは十分に理解できるものの、映画で映像化して欲しい、という気持ちは元々持っていた。

この作品を決定づけている一つはキャスティングで、中でも『大森 南朋』と『松田 龍平』、『嶋田 久作』という実力者を揃えているところが大きい。TVドラマの際にもこのメンバーは出演しており、セリフが少ない中にも確実な存在感をアピールしていた。3人に共通するところは画面越しに見ていても自分で存在感をコントロールできるところだ。こういう能力を持った人がいる、ということにビックリするけど(だから俳優業ができるんだろうけど)セリフの言い回しや立ち振る舞いではなく、周りの空気でメッセージを作り出すことができる。中でも『大森 南朋』は原作の鷲津雅彦と若干イメージが違うけど、大森版『鷲津雅彦』を作ってしまっている。個人的に好きなのは、うまくいかずに悔しがる表情で、TVドラマの時から出てきているが、この表情には妙に引きつけられる。作品の中ではない大森 南朋はどちらかというと、ちょっとぼやけた感じの人柄なのに鷲津役の大森 南朋はそんなところは微塵もなく、逆にこの『悔しさ』の表現には自身が持つエネルギーを絞り込んでアウトプットしているのではないかと思わせるぐらいにストレートだ。僕自身がこういう悔しさを表現するのが苦手なので、特に感じるのかも知れない。


 

シーンの中では鷲津雅彦と対決しているもう一人のハゲタカ 劉一華がマンダリン・オリエンタルで対面するところが山場の一つ。鷲津が『あんたは誰なんだ』と問う。劉一華は『あんた自身だ』と鷲津に向かっていう。過去と現在を重ね合わせたこのやり取りは過去の作品(原作、TVドラマ)を一瞬に置き換えている。細工するなら、上原ひろみの『xyz』に乗せて、フラッシュ的なスチル映像をちょっと入れたい。久しぶりに原作を読んでみようか。


"アナザー・マインド" (上原ひろみ)