ビジネスの世界でもアシストは存在し得るか 『サクリファイス』 近藤史恵

単行本で読んで依頼なので約1年半ぶりに読んだ。一度読んだ本を再度読み返すきっかけを作ってくれることを考えると単行本を文庫でリリースするメリットの一つである。読むタイミングが違うので同じ内容であっても感じ方が違って、新たな発見があったり、違う部分に魅力を感じたりすることもある。この『サクリファイス』はどのレビューを見ても高評価。前回のレビューとは違う観点で書いてみたい。


前回

「サクリファイス」 近藤史恵 2008-05-12

ストーリーそのものは自転車ロードレースのプロ 白石誓がエースではなく、アシストとしていろいろな思いを抱きながらロードレースにのめり込んでいく、あるいは自分自身を理解し始める。自分の『仕事』や『役割』を意識しながら、今すべきことに全力を注ぐ。誰でも他人から評価してもらいたいし、結果を出したいと思っている。結果というのは必ずしも個人としての結果だけではなく、チームで何かを進めている時にはチームとしての結果を指すこともある。ただし、場合によってはこのロードレースのように『見える結果』は『個人』となることもある。仕事におけるプロジェクトでもエースの立場のポジションもあれば、アシストのようなポジションもある。ただし、その多くではアシストのポジションを長く続けていてもキャリアパスとしてはあまり道がない。一方では、このアシストの仕事がなければプロジェクトは進まない。個人の性格や得手不得手を考えるとエース向きやアシスト向きははっきりとするし、向いている場所で仕事をすることがプロジェクトの効率化にも繋がるし、個人のモチベーション維持にもなる。しかし、プロジェクト外からはアシストの仕事は見えにくいし、高く評価されることはあまりない。そういう意味でも自転車ロードレースは『紳士的』なのかも知れない。サッカーでもアメフトでもスポーツの世界ではそれぞれのポジションと求められる役割があり、そのポジションで評価はされるが、実際のビジネスの世界ではアシストの仕事は外部から高い評価を受けることは難しい。

今後は多くの仕事が今以上にプロジェクトベースになることが多いので、この辺の評価方法やアシストとして生きる道を用意できるかどうかが重要になってくるだろう。映画の『ミッション・インポッシブル』のようにエースはトム・クルーズだけど、トム・クルーズだけでは難しい仕事は成功しない。ビジネスの世界も変わるのだろうか。