必要なのは『思い』 『翼をください』 原田マハ 3


"翼をください" (原田 マハ)


中後半からは暁星新聞社の世界一周チャレンジの話題になる。ライバル朝丘新聞が訪欧旅行に成功し、暁星は目標を世界一周、そして純国産機に拘り、九六陸攻をベースとした長距離飛行用の機種を三菱重工に発注する。またこれまでの有視界飛行から計器飛行という技術面でもハードルが高いチャレンジをしなければ実現できないことを目標とした。機長を含め、外からも人材を集め、新しいプロジェクトがスタートする。そして山田順平は専属カメラマンとしてプロジェクトメンバーに抜擢される。そしてこのプロジェクトを支えるのは、奥村暁星新聞社長、山本五十六海軍中将で、海軍が全面協力することに1つの条件が付けられる。

 

世界一周に挑む飛行機は『ニッポン』号と名付けられ、1939年に羽田を発つ。太平洋を横断する前の中継地、札幌で機長の中尾からもう一人の乗組員を紹介される。その人物には一切の質問をしてはならず、搭乗することもすべて秘密であると伝えられる。8番目の乗組員は『ボーイ』と呼ばれた。『ボーイ』は数々の難所でプロジェクトメンバーを支え、無事ニッポン号は世界一周を果たすしかし、時代は戦争へと歩みだし、皮肉にも進歩した飛行機製作、飛行技術は平和に応用されなかった。

 

これらの事実をインタビューした翔子は主筆の岡林と上司の森川に報告し、3人の秘密として深く胸の中にしまう。

 

史実をモチーフに書かれたこの小説は本当に完成度が高く、読んでいる自分自身が一緒に飛行機の中にいる気持ちにさせる。文章力が抜群なだけではなく、心を揺さぶる何かを持った、そんな小説である。今年読んだ中でダントツの作品。