必要なのは『思い』 『翼をください』 原田マハ 2


中前半はエイミー・イーグルウィングがエイミー・イーグルウィングとして活躍するシーンが描かれている。飛行技術だけではなく、瞬時の判断力、チームとしての行動力、そして戦争の影がにわかに感じ始めたこの時期、飛行機から見る世界には『境界がない』という強い意志を感じさせるようなエピソードが散りばめられている。エイミーを支えるチームメンバー、特に地上から通信という手段で正確な位置情報を知らせ、エイミーの心の支えをするトビアスとの関係は恋愛小説としてみても完成度が高い。

 

マンハッタンで出会う不思議な風貌の人物。ボーイにチップが足りないと言われ、煙に巻くような会話で誤魔化そうとし、代わりにエイミーがチップを払い、二人が出会うことになる。アインシュタインとの出会いである。エイミーとアインシュタインは友人として会話を重ね、エイミーの考えでもある『境界がない世界』は存在しなく、『境界がある』からこそ『共存』が必要だとアインシュタインは説く。そして、日本が脅威の対象になりつつあることを告げられる。エイミーの中に日本という国が特別なポイントになる瞬間である。

 

エイミーの世界一周計画は順調に準備が進められる。それは海軍がスポンサーになり、エイミーが乗る飛行機にカメラを取り付け、スパイ行為を秘密裡に実施させる策略込みで。

チームは散り散りになりながらもエイミーは世界一周に旅立ち、無線局からの通信に『PSE/PSE』と受信する。かつての仲間からどうしても伝えたいことがある時にそれを知らせる暗号でもある。周波数を変更し、裏の通信網で『バンドンの中央郵便局に行け』と伝えられる。手紙はアインシュタインからのもので、エイミーの世界一周挑戦の本当の目的が書かれ、エイミーが乗る飛行機は長距離爆撃機のテスト飛行でもあることを知らされる。その事実を知ったエイミーは単身で予定のコースを外し、燃料切れによって洋上に不時着する。

 

先例が無いことへの挑戦であっても信じるものがあればこそ向かっていける。すべての捨て、自らの命をも捨てる覚悟で単身飛び立つエイミー。目は文字を追いつつも、頭の中には映像が浮かび上がる。そう滅多にはお目にかかれない傑作のまだまだ折り返し地点。