必要なのは『思い』 『翼をください』 原田マハ 1


"翼をください" (原田 マハ)


今年出会った作家の一人、原田マハの最新作『翼をください』。特別な期待を持たずに読み始め、読みながら何度も涙してしまった。単純に泣ける小説という話ではなく、本当に作家 原田マハの思いと情熱が文章に乗っている感じがする。話の中心になっている戦前に国産飛行機で世界一周をしたことは事実であり、他の登場人物もモデルがいるわけだがストーリーそのものはフィクションでありながら、どこかで『事実であってほしい』気持ちで一杯である。

 

話の始まりは新聞社に記者として勤める青山祥子が創立135年記念企画としてテーマを検討する中で、主筆である岡林にインタビューするところから始まる。社会部記者を目指す祥子が岡林にインタビューをし、こう言われる。


「君、記者やめなさい」

「自分の主張に相手を引っぱり込もうとする。それじゃ、僕のインタビューじゃない。君のインタビューだろ」

実はこのたった2行のセリフで僕はかなりの時間を思考に費やした。自分自身の仕事を含めたコミュニケーションがこうなっているのではないか、と。

岡林とのインタビュー中で出ていた山田順平というキーワードから本書のストーリー全体に繋がっていく。歴史に葬り去れた元社員、いや、日本にとって重要な事実を為し得た一人、そしてその事実をカメラに収め続けた人物。その山田順平に会うために祥子はカンザスに向かう。ホームに山田順平がいることを突き止め、祥子は会いにいく。そして、古い写真をCG処理して7人で成し遂げた世界一周に実は8人目のメンバーがいて、それが女性飛行士 エイミー・イーグルウィングらしき人物。その事実を確かめるために、祥子はカンザス州ハチソンの山田のもとを訪れた。

 

実はここまでが最初の一節である。起承転結でいえば、『起』に当たる部分だが読み終えてみると本当にこの少ないページにすべてが盛り込まれている。以前に読んだ原田マハの作品とは別のレベルの作品である。そして、読み終えた際に、三菱重工が国産ジェットにこだわる気持ちが少し理解できはじめた。何事も最初に『思い』が必要なんだと。