100年を15年で成し遂げた 『サッカーのない人生なんて!』 増島みどり


"サッカーのない人生なんて! (ベースボール・マガジン社新書)" (増島 みどり)

以前に彼女の作品を読んでライターとして興味を持っていたので今回も期待して手にした。期待通りというとちょっと物足りない気もするが、選手にフォーカスするのではなく所謂、脇役というか、縁の下の力持ち的な人物にインタビューしているところが面白い。

 

1993年にJリーグがスタートし、早いもので15年以上の月日が過ぎている。ちょうど僕が社会人になって少しした、90年の終わりぐらいから91年の初めぐらいにJリーグに関係した仕事の話をちらほら聞くようになったいた。仕組み的にはバブルが崩壊していたけれど、世の中はまだまだバブルの余韻が残っている頃で、東京ドームの巨人戦は常に満員御礼、スポーツといえば野球が中心の時代にサッカーがどれだけ広まるか、多くの人たちはあまり期待せずにJリーグの開幕を夢見ていた気がする。

 

Jリーグはスタートこそ華々しく切ったものの、野球ほどの継続的な動員力があるわけではなかったので資金的にも厳しいチームがあり、運営には相当大変だったと想像する。一方、当初から野球と違って地域に根ざしたチーム作りや地域とのコミュニケーションをテーマとして、どのチームも地道な努力をしてきた甲斐があり、今はスポンサーである企業よりも地域名が先行し、チームを持つそれぞれの地域では多くのサポーターを抱えるようになった。ある意味、たった15年でここまで基盤を作り上げたある部分の立役者が本書に登場する。

最初の一人こそ、日本サッカー協会川淵キャプテンだが、以降は国立競技場の芝のメンテナンスを担当してきた鈴木氏、職業レフェリーの岡田氏、浦和レッズの藤口代表など中田やカズ、俊輔といったスター選手の記録ではない。それぞれが先例なき中で、どうすれば自身の仕事を全うできるかを真剣に考え、行動してきたのか、言葉以外にも感じるものがある。それぞれの中にサッカーがあり、各11人が90分戦うだけがサッカーではないことをもう一度気付かせてくれる。

 

UKに出張した時、太刀打ちできない人々の生活に溶け込んだサッカーの歴史を感じ、こんな国にはそう簡単に勝てないよな、と本当に思った。でも15年でこうなったのなら、もしかしたら太刀打ちできるようになるかも知れない。ワールドカップで勝つことではなく、普通の人たちがサッカーを通して異国の人と会話ができるという意味で。