まだまだ続く、モルトの道

モルトへの道のりはまだまだ続いていて、今は一番多く口にするのは『Bowmore』だろう。『Bowmore』の特徴はストレート、ロック、水割りとどの飲み方でも味が崩れないこと。逆に『CAOL ILA』はストレート以外では芯が壊れる。そういう意味でも『Bowmore』は完成度が高く、安定したモルトと言えるだろう。またオフィシャルでもボトラーズでも一定以上の味を提供してくれ、裏切らない味である。
一方で、本当に美味しい『Bowmore』はサントリーに買収される前に作られていた『Bowmore』に尽きる。ウイスキーとは思えない華やかな香りは何とも不思議な感覚をおぼえる。何かフレーバーを混ぜているのではないか、と思わせるほど香りが立つ。僕にこの『Bowmore』を教えてくれたのは道玄坂上にある『Bootleg』。それからというもの、僕はここで『Bowmore』を注文する際に「香水」と呼んでいる。

村上春樹の著書「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」の中にも『Bowmore』の蒸留所に訪問した際のシーンが登場する。たしか写真もあったはず。こんな風にモルトは直接五感に感じるもののほかに知識を得ることでさらに気持ちに訴える作用がある。そういう意味でも知識を積み重ねていくことで、味わい方、楽しみ方を変化させることができる。

元々、アイラ島モルトはピートが効いていて、個性的な香りと味を持っている。そのため、そのほとんどはブレンディッド・ウイスキーの香り付けに利用されている。とはいっても、1%未満がほとんど。でも、この1%がないと完成しない、という極めて重要な役割を担っている。そのため、アイラ島シングルモルトをストレートで飲むと「好き」、「嫌い」が本当に分かれる。しかし、どんな人でもモルトに傾倒すると一度はアイラ島モルトを通ることになるだろう。
元々が「ブレンディッド・ウイスキーの香り付け」のためのお酒なので、シングルモルトとして流通する量は限られている。シングルモルトもオフィシャルとボトラーズに分かれ、それぞれ長期の間、樽に詰められ保管される。そのため、流通量はそれほど多くなく、ボトラーズのシングルモルトは「その時限り」という場合が少なくない。だからこそ、無理せず、自分の好きな飲み方で味わって欲しい。最初からロックや水割りではなく、ストレートからそれぞれの味わいを感じながら・・・・。10年、20年と長くにわたって携わった人たちに感謝の気持ちを込めて。