時間を忘れるぐらい面白い 「数学的にありえない」 アダム・ファウアー

数学的にありえない〈上〉 (文春文庫)

数学的にありえない〈上〉 (文春文庫)

数学的にありえない〈下〉 (文春文庫)

数学的にありえない〈下〉 (文春文庫)

ここ暫くブログ内で本のレビューを書いていないな。基本的には『crossreview』に100文字レビューを書くようにしているので、余程のことがない限りブログには書かなくなった。今回の『数学的にありえない』はちょっと別格だったので、敢えてブログに書いて見ることにした。
この『数学的にありえない』は文春文庫で上下に分かれており、最初に買ったのは『下巻』だった。そうとは知らず、ページを開いてみたら下巻であることに気付き、その2日後ぐらいに上巻を買って、ようやく読む準備が整ったのである。
タイトルを見れば予想できるようにモチーフとしては『確率論』が展開されるが、基本的にはミステリーである。主人公のデイヴィット・ケインは元統計学の講師で、ある事件がきっかけで教壇から去り、地下カジノで大きな借金を作ってしまうところから物語は始まる。
前半はそれぞれの登場人物のバックグランドが展開されるため、若干、話が飛び飛びに感じられるが、後半はそれぞれのピースがまずでパズルのようにはまりだし、その頃はページをめくっていることを忘れるぐらいに引き込まれていることだろう。
ケインは病気の克服のために実験的な投薬を受け、不思議な力『すべてのとき』にアクセスできるようになる。『すべてのとき』はこれから起こる出来事を感じ取り、更にいくつものシナリオを感じることができることから、結果的に危険を回避するシナリオを選択し、他人からは『未来を感じ取る力を持っている』と見られる。CIA工作員ナヴァはCIAを裏切り、自分自身の価値基準で生きている。そんな彼女はなぜかケインには心を許し、逃亡劇の重要な役割を担う。
ケインの最後の大博打は確率論的にはありえない出来事の連続を『すべてのとき』にアクセスし、『勝ち』を得る。統計学、数学、物理学などの話が散りばめられ、「ちょっと勉強してみようかな」と思わせるぐらい興味深いストーリーになっている。本当に天才的な作家が描く作品である。