この時期に読むのは偶然とは言え、当たりだった 「証券検査官」 松島令

新装版 証券検査官 (宝島社文庫)

新装版 証券検査官 (宝島社文庫)

久しぶりにブログに本を読んでの内容を書く気がする。最近は電車での移動中はiPhoneを触っていることが多いので、実際に本を読んでいるには寝る前の時間がほとんど。そのため、昨年や一昨年に比べると本を読む量は圧倒的に少なくなってきている。情報入手というポイントで考えるとこれも仕方がないか・・・という気がしている。
この本は宝島文庫の新刊のコーナーにあったので、何気なく手にして購入した。実際に読んでみると随分と古い作品で、よく見ていると「新装版」と書かれていた。う〜ん、ちょっと騙された感はある。主人公は大蔵省に勤めるノンキャリアの検査官・魚住直也(作品が古いので、大蔵省と記載されている)。不運な過去を持つ魚住は自分以外は信じない、そして相手が強大な敵であっても決して怯むことなく立ち向かったいく。魚住の中には善悪の判断などはなく、「生きていくため」には犯罪も厭わない。しかし、良心が無いわけではないため過去に犯した過ちによって幻覚を見ることもある。官庁内のキャリアとノンキャリアの位置関係、政治家と官僚の関係などは作者がその渦中にいたことあって非常に細かく、よく描かれている。ちょうど衆議院選を目の前にしているこの時期にはちょうど良かった気がする(宝島社はそれを狙ったのだろうか)。これを読むと政治がリーダシップを発揮しているというよりも、霞ヶ関、それも官僚組織にパワーバランスで動いていることが分かる。この作品は小説なのでフィクションではあるが、相当な部分で事実、あるいは事実に近い表現だと思う。
作品そのものはデビュー作ということもあり、ちょっとまだまだという感じ。あれもそれも入れないと・・・・という感じが強く、まだまだこなれていない文章になっている。描写に関してはさすがに知識と経験があるため、充実しているが全体のバランスはプロとしてはこれからの感じである(解説者はべた褒めしているが、解説なんてそんなものだろう)。ただし、不思議なもので読後に続きを読みたくなる。普通であれば、作品の完成度が高いために続きを読みたい、という感覚が生まれることはあっても、そうでないケースでそう感じさせるのは見えない魅力があるのだろう。近いうちに続きの部分を読んでみよう。