10代のその時には一番大事なことだと思っていた「流れ星が消えないうちに」 橋本紡

流れ星が消えないうちに (新潮文庫)

流れ星が消えないうちに (新潮文庫)

この作品の作家 橋本紡氏の作品は初めて。何で手にしたのかよく分からないけど、読んで良かった、というのが第一印象。すっかり忘れていた10代、20代前半の感情というか、気持ちは大人ぶっていながらも心は本当に脆弱な時期があったな・・・と思い出した。
中学、高校、大学と身体の成長と心の成長がシンクロしない時期は些細なことで一喜一憂し、小さな、でも必要な心の傷を蓄積しながら成長の階段を上っていく。それは地道な作業ではあるものの、やはり近道をせずに経験した方が後々役立つとこの歳になって感じる。必要な寄り道とでも言おうか。
主人公の奈緒子は事故で帰らぬ人となった彼、加地を忘れられない。加地の親友でもあり、奈緒子と加地が付き合い始めるきっかけを作った巧は奈緒子の彼の位置にいる。巧は親友として加地を好きで、文化祭準備の時に加地を手伝い、彼の思いを聞いたためにキューピット役を買って出た。そんな加地の思いも理解し、加地を忘れられない奈緒子の気持ちも理解しながら付き合っている。いろいろ経験してきた大人であれば、過去はどうあれ、現在は生きていない加地のことを考えても結論が出ないわけだから、ある意味、割り切って付き合っていくことも可能だろう。しかし、それぞれが踏ん切れず、本心と現実とのギャップの中で悩みながら今を生きていく姿が描かれている。そこに、それぞれの家族が絡み、家庭環境が出てくる。結婚するわけでもないタイミングで、恋人の父親に会うのはきっと複雑な気持ちなんだろう。僕自身は若い頃からその辺は抵抗なかったので、ちょっと理解出来ないが、いろいろな人に聞くと結構嫌なものらしい。
この作品のメインの一つである加地が奈緒子に告白するシーンには読み手も応援したくなる。これまでの加地の準備と前夜の巧の器用な一面のお陰で学校内に作ったプラネタリウムに誘い、加地がMCで奈緒子に向けた告白をプラネタリウムで流星を演出する、という何ともロマンチックなシーン。きっと「吊り橋効果」のような作用があるに違いない。その後にフォークダンスに繋がり、見事加地と奈緒子は付き合うことになるのだが、その陰で人一番活躍したのは巧だった。タイムマシーンでこの頃に戻れるなら、やっぱり共学がいいな(笑)。