まるでゲームのような小説「ステップ」 香納諒一

ステップ

ステップ

香納諒一氏の作品の連チャンです。主人公の斉木章はバーのマスターであり、裏では盗みのプロ、という設定。面白いのは全10編の「Step」で斉木が何度も死んで甦り、経験したことを次の時には過去の経験として先回りして対応しようと行動をする。よくあるパラレル・ワールドではなく、まるでゲームのようにリセットされるような感じである。読み手はゲームプレイヤーのように失敗を経験として回避するように、斉木も回避する。しかし、タイムマシーンでタイムスリップするのとは違い、自分自身が過去と違う行動をするためにその後の動きが微妙に変わっていくところが単純リセットではない。こんな経験をする羽目になる原因は謎の香水の香りを嗅いでから・・・・という設定。この部分は筒井康隆氏の「時をかける少女」を彷彿させる。
10編のStepの中で、いくつか山場がある。一つは仲間であり、今は病院のベッドでの生活を余儀なくさせられている加山が息を吹き返すシーン。そしてもう一人の仲間、杏の素性が明らかになる時である。この辺の展開の仕方は「さすが、香納諒一」と思わせる。主人公が死んでは甦ることで、何度も同じようなシーンを繰り返すため段々と飽きてくる頃に秘密を小出しにしていく。結果、最後まで一気に読むことになる。
それから最後まで読むと、この小説は恋愛小説ではないか、と錯覚させられる。本当に引き出しの多い作家である、香納諒一