日常にもう一歩近づいてみると 「モノレールねこ」 加納朋子

モノレールねこ (文春文庫)

モノレールねこ (文春文庫)

何かの雑誌かWebサイトで「加納朋子」という名前を見かけ、xxxの作品(xxxは作家の名前で誰かを記憶していない)が好きならお勧め、的な文章を見かけて作家名だけが記憶にあった。たまたま書店で、文庫新刊コーナーの一列にさりげなく置かれていて、僕も中身も見ずに、また意識せずに手にとってレジに並んでいた。
読んで見たところ、何とも不思議な気持ちにさせる作家である。ほのぼのでもないし、ワクワクでもない。かといって、ハラハラでもない。でも心は確実に動かされている。難しい言葉も使わず、「日常」のある一部を切り取って「加納朋子」の目で見るとこうだよ、という文章だ。淡々と物語は進んでいきながら、読んでいる自分の心が揺れ動くのがよく分かる。「なんだろう、この気持ちって」とあっさり認めてしまう。
中でも一番好きなのは「セイムタイム・ネクストイヤー」。

「奥様は先ほど、奇跡という言葉を使われましたよね。奇跡というものは、案外ちょくちょく起こるものでございますよ・・・・・割合身近なところで」

この一言のためにこのストーリーがあるといっても過言ではないだろう。そして最後の1ページですべてが完結する。鳥肌が立った。
表題作の「モノレールねこ」も捨てがたい。子供の頃の思いが大人になって結びつく。まるでピースが足りなかったパズルに残りのピースが填るように。「シンデレラのお城」も「ちょうちょう」も、また違った良さがある。そう短編が8つの作品なのに、それぞれのテーマが全く違い、そしてそれぞれがうますぎる。久しぶりに見つけたお気に入りの新しい作家かな。