新しい価値観で勝ち残って欲しい -JMMの感想-

僕の中の大好きな作家の一人に村上龍さんがいる。このブログでも何冊かは紹介しているけど、実際には彼のほとんど作品を読んでいる。世間には「村上好き」が2タイプいて、村上春樹派と村上龍派。最近は1Q86の件もあるので、村上春樹派の方が優勢かも知れない。僕の場合、どちらか一人、といえば、紛れもなく村上龍派である。前置きが長かった。彼が編集長を務めるJMMというメールマガジンを購読していて、特に月曜日に配信される内容は毎週楽しみにしている。村上龍編集長が時事問題というか、最近話題になっているテーマを掲げ、多方面の識者がそれぞれの切り口で回答する方式を採っている。識者それぞれの文章がある程度のボリュームなので、全部を読むとちょっとした読み物になる。この辺はそんじょそこらのメルマガと大きく違う。
今週のお題

GMが事実上国有化されました。「自由の国」アメリカ合衆国で、政府主導の「再建」が成功するのでしょうか。

とうもの。米国にとって自動車産業はある意味、プライドでもあるので対GMに対してはこのような措置になったと僕は思っている。当然、政治の世界なので利権のパワーバランスは大いにあるとは思うけど、それ以上に国民の自動車産業に対する思い入れ(僕の中ではこれはプライドだと思っている)を反映していると思っている。今回の識者の見解全般に言えることは限りなくうまくいく可能性が低いということである。中でも、信州大の真壁教授のコメントは非常に分かりやすい。

政府の手厚い支援があったとしても、中・長期的にGMを再生することはかなり難しいと思います。GMは、基本的には自動車メーカーですから、消費者が欲しいと思う車を作ることができるか否かが、最終的なメルクマールになる筈です。政府の後押しもあり、一時的に米国市場などでGMの車が売れるかもしれませんが、GMが負の遺産を背負って、自動車市場を取り巻く環境変化について行くことは容易ではないと思います。

GMの経営状態が怪しくなって以降、知り合いのエンジニアなどに、GMが持っている技術力について幾度となく尋ねました。多くの人は、「GMの技術力、とくに燃費の良い小型車やハイブリットカーを作る技術は、日本のメーカーからかなり遅れている」という答えでした。GMも海外工場では小型車を作っているようですが、強力なライバル車と比較して、それほど魅力がある製品ではないようです。

昔、米国の友人に、「なぜ、米国で日本車がよく売れているのか」と聞いたことがあります。彼は、「色々な要因はあるが、たぶん、最も重要なファクターは信頼性が高いからだろう」と言っていました。そう言われれば思い出す話があります。1985年、ニューヨークに赴任しました。殆ど同じ時期に、友人が米国に赴任して、米国製の車を買いました。そして、その車が届けられ、ドアを開けて乗り込もうとしたとき、四つのドアロックの長さが違うことに気がついたそうです。

友人は疑問を感じたので、その車を運転して購入先のディーラーに行き、「ドアロックの長さが違う」と指摘しました。すると、ディーラーの担当者は、「ノープロブレム(問題ない)!」と答えたそうです。ディーラーは、「車はしっかり走るのだから、ドアロックの長さなど問題ではない」と言いたかったのでしょう。おそらく、日本車のケースでは、考えられないようなことだと思います。

これは事実だし、恐らく今までの延長線で考えればそうだと思う。ただし、顧客が日本人ではなく、日本人の価値観ではない世界で勝負するとすれば、また違った予測が成り立つかも知れない。何もGMに頑張って欲しいわけでも、米国政府に成功してもらいたいわけでもなく、必ずしも価値観は自分あるいは自分たちのものが正しく、スタンダードなわけではないということ。各識者の見解は正しいと予想されるが、それらを覆すような結果が見られれば・・・と密かに応援したい。