「クラウドソーシング みんなのパワーが世界を動かす」 ジェフ・ハウ

クラウドソーシング―みんなのパワーが世界を動かす (ハヤカワ新書juice)

クラウドソーシング―みんなのパワーが世界を動かす (ハヤカワ新書juice)

久しぶりの本の感想だな〜。最近、この「クラウド」と名の付く本がたくさん出ている。でも日本語で書くと同じように見えるけど、クラウドコンピューティングの「クラウド」は「cloud」で、このクラウドソーシングの「クラウド」は「crowd」。意味が全然違います。このクラウドソーシングというのは、wikipediaのような「群衆」の力を利用して何かを創り出す方式を指している。基本的にはビジネスという切り口で考えているので、一般的なソーシャルメディアやコミュニティだけではなく、コミュニケーションをうまく活用してビジネスをドライブするビジネスモデルと表現した方が近いかも知れない。従来と違うのは利益を上げている企業側の理屈だけでは成り立たず、コミュニティあるいはコミュニティを構成する個人の幸せと企業側が共生しないと成り立たないことが大きなポイントである。本書の中には事例をベースにこの流れについて書かれているので、是非読んで欲しい。
何年か前に「みんなの意見は案外正しい」という本を読んだ。確か今の会社の草野さんと飲んでいた時に紹介されて読んだものだったと思う。これは一人の賢い人の能力よりの群衆の知恵の方が勝っている、というテーマで書かれており、正しくクラウドソーシングを意味するような一冊だった。話は飛ぶけど、本書を読む前には「みんなの意見は案外正しい」を読んだ方が良い。こういうレコメンドができると河野さんがいう「サジェストエンジン」になるんだろうな、きっと。
ここでもう一つ大事な点も上げられている。「多様性」。多様性による問題解決能力の高さは実験によって定理の土台が作られている。そういう知識があったので、mixbeatでも多様性を重視して塾生を選抜している。ただし、問題解決能力が高いかどうかは分からないけど。
インノセンティブの事例の中で説明されている箇所に興味深い一文がある。電気技師のメルカレクはいくつもの難しい課題を解決しているが、どうして優秀なスタッフを抱える一流企業がその解決策を見つけられなかったか。

「たぶん、化学では優秀でも物理学をよく知らない研究者しかいなかったんだろう」

何かイノベイティブなことをするには今までの思考の延長線上ではなく、全く新しいアプローチが必要になる。これは何も発明や新商品開発だけの話ではなく、マーケティングの世界も一緒である。金融業界では当たり前の手法を流通業界では非常に新しいこともあるし、その逆もある。
その他にも考えさせられる話が各章ごとにある。その宝探しをしながら読む楽しさがある。今年の上期で、ベストな一冊である。