「賢者はベンチで思索する」 近藤史恵

賢者はベンチで思索する

賢者はベンチで思索する

全然話の内容が違うのに何となく 桂望実さんの「ボーイズ・ビー」を思い出した。きっと「ボーイズ・ビー」の老人と少年の関係が久里子と国枝老人の関係に見えたからだろう。近藤史恵さんの作品は何作か読んでいるけど、ミステリーのテイストがちょびっと入っていて最後まで一気に読んでしまうのが特徴の気がする。それは文章力が高い証拠なのかも知れないけど、そう感じさせない。テーマがすごく日常的というか、「普段」のような部分を切り取って作品にしているせいかも知れない。そう考えると「観察力」もすごいのかも。
この作品はいろいろなテーマが並行して流れながら構成されている。例えば、主人公の久里子は目標もないままフリーターのような生活をしていて、その弟は引きこもり浪人生、その兄弟の関係や家族関係の変化をいろいろな出来事によって変化していく様子を描いている。偽国枝老人と本当に国枝老人との間に交わされた約束は年老いた人間のある希望の一つのような気がする。あるポイントで見ると、久里子がバイトするファミリーレストランを店側と客側から表現するとこのストーリーのようになるんだろう。こういう多次元的な視点でストーリーを展開させるような構成は本当にうまい。今後の作品も非常に楽しみ!