「時の渚」 笹本稜平

時の渚 (文春文庫)

時の渚 (文春文庫)

この本は買ったわけではない。以前に地元に帰った時に小学校/中学校の同級生のうちに遊びに行って、大きな紙袋いっぱいにもらった本の中の一冊。こういうのって、新しい作家との出会いとしてはすごくいい。ということで本書だが、三分の二ぐらいまでは先が見えた「今ひとつ」な作品という感じで、正直、「ここまで読んだし、最後まで読もうか」程度で読んでいたが、最後の三分の一は良い意味で裏切られた。これをやりたかったための前段か・・・・ぐらい良かった。帯には「サントリーミステリー大賞受賞作」と書かれており、前半を読んでいる時には疑問視していたが、読み終わってみると「そうだよな」と納得。単純にミステリーというだけではなく、親子の関係も同時に考えさせられる作品だ。
違った角度で見ると、どの登場人物もあまりキャラクターを印象付ける描写が少ない。それぞれの登場人物の過去の事実を紐解く描写はあるものの、会話で印象付ける部分は少ない気がする。だからか、淡泊な感じで時間が流れていく。作者が立教出身だからか、逃走する犯人が立教のキャンパスに逃げ込む。タッカーホールなど立教出身の人には馴染みがある名前とレイアウトが想像つくと思うが、そうでない大半の人はイメージしにくいだろうな、と感じた。僕の場合、何度か立教のキャンパスには行ったことがあるのでイメージはついたけど・・・・。そう言えば、伊藤さんと日本推理作家協会60周年イベントに行った時に伊藤さんから言われた話はこれなのかな・・・・とふと思った。良い作品です。