「MURAKAMI 龍と春樹の時代」 清水良典

MURAKAMI―龍と春樹の時代 (幻冬舎新書)

MURAKAMI―龍と春樹の時代 (幻冬舎新書)

村上龍村上春樹、どっちが好き?」って質問には答えにくい。どっちも好きだから・・・。先に読んだのは高校生の時に「風の歌を聴け」と「羊をめぐる冒険」で春樹の方。同級生が買った単行本を借りたのが最初だった。正直、何が良くて、どういう話なのか全く理解不能だった。鼠も羊男も何を意味しているのか、リアルな世界なのか幻想の世界なのかさえも分からずに同級生に本を返した。暫くしてから、話題になっていた龍の「限りなき透明に近いブルー」を読んで、気持ち悪くなった。今はそんなことはないが、高校生の未熟な状態では龍も春樹も難しい世界だと思う。
本書は時系列を追って龍と春樹の作品を対比させながら、時代のトピックスを絡めて展開されており、少なくとも龍か春樹のファンであれば非常に楽しめる作品である。またファンは改めて過去の作品を読み返してみようと思うだろう。
本書の比較的前のところにこのような記述がある。

これらの雑誌群の出現が何をもたらしたかというと、読者の著しい細分化であり、階層化に他ならない。たとえば女性向けの雑誌では、七〇年代初めからあった長寿雑誌『an・an』『non-no』に加えて、ニューファミリー向けの『クロワッサン』が創刊されている。

今や雑誌というメディアそのものがインターネットの出現によって苦境に立たされており、雑誌に限らず過去からのメディアは更なる細分化が進んだお陰でメディアとしての価値そのものが変化している。本当のパラダイムシフトが起きている。
過去をノスタルジー的に見るのではなく、時代を背景に二人の「村上」を味わえる本書は是非読んでみて欲しい。