「冥府神の産声」 北森鴻

冥府神(アヌビス)の産声 (光文社文庫)

冥府神(アヌビス)の産声 (光文社文庫)

新宿を舞台にした小説といえば、大沢在昌の「新宿鮫」や藤原伊織の「テロリストのパラソル」を思い出す。この「冥府神の産声」はそれを超える作品で、テイストは同じ大沢在昌の佐久間公シリーズを彷彿させる。ちゃちなミステリーにありがちなミスリードの伏線だけを意識させるような幼稚なストーリーではなく、強いていえば直球勝負のミステリーである。北森作品はそのほとんどを読破しているが、作品のレベルとしては甲乙つけがたい仕上がりです。
ここまで感じたのは作品の素晴らしさだけではない。時々、本からのメッセージ「アフォーダンス」を感じた作品を中身を見ずに購入することがあるが、なぜか直近では茂木健一郎や池谷祐二といった脳を研究している人の作品を手に取り、この作品を読んだときに「シンクロニシティ」を感じた。
もう一つテイストが近く感じたのは野沢尚の「魔笛」である。テーマは全然違うものの、生と死の境界線を扱うと同じように感じるものなのかも知れない。ここに書いた作品に共感を得た方は手に取って損はない。この作品が埋もれていたことは非常に残念である。