「「北島康介」プロジェクト」 長田渚左

「北島康介」プロジェクト

「北島康介」プロジェクト

最近、ノンフィクション作品に興味があり、この本を手にした。特にスポーツにおけるコーチングやプロセス、フィロソフィを感じるもの。この作品は2004年に上梓されたものなので北京オリンピックまではカバーされていないが、どういうプロセスを経て北島康介世界新を出すまでになったかが詳細に書かれている。
北島康介を支える5人のコーチ陣のそれぞれの思い、人材発掘、科学的なアプローチ、目標設定などスポーツに限らず、通常のビジネス上でも役に立つポイントが鏤められている。目先のイベントをどうこなしていくか、ではなく、目標を達成するために目先のイベントを通過点として捉え、クリアするために発想を変える。弱点を補うのではなく、強みにしてしまう。それらは強い信頼感の上に成り立っている。本書を読むと5人のコーチ陣は強い意志のもと、北島康介を指導していくがコーチ間、コーチと北島康介の間には想像以上の信頼感を感じる。お互い決して妥協しない。今の常識にとらわれない。言葉で書くとよく聞く話であるが、実行するには決して簡単ではなく、目標を共有して「諦めない」強い意志が無ければ成り立たない。
本書を読むと過去のレースで北島があまり良いタイムが出せずに終わった時も大して残念がっていない意味が納得できた。マスコミが書き立てていた、あるいは一般の人が勝手に期待していた各レースの結果など気にしていなかったのだ。気にしていたのは掲げた目標達成だけ。それぞれのモチベーションは金銭や一般的な評価ではなく、お互いの気持ちに応える、といったもっと人間らしい部分だった。本書は成功物語ではなく、「コミュニケーションとは・・・・」という目線で読むと非常に面白い。