「贄の夜会」 香納諒一

贄の夜会

贄の夜会

久しぶりに文字数が多い(この小説は本当にすごい)本だった。しかし最後まで丁寧に書かれた作品である。通常であれば途中で飛ばしたくなる気持ちを感じさせず、最後まで読み手の気持ちを冷静に導いてくれる。
主人公の大河内は名探偵や名刑事というキャラクターではなく、極めて普通の、ただし経験が感覚を研ぎ澄ましたような設定である。犯罪を犯してしまう精神的にバランスを崩れてしまった心をマインドコントロールで殺人犯にしたててしまう犯人。一方で、芸術性や哲学的視点から人の心を捉え、自ら手を下さずとも理想とする殺人を行う。プロのスナイパーとその過去、身内が事件に巻き込まれ大きな心の傷を負った人たちの集まり、過去の少年法の弱点と数々のモチーフを一つ一つ積み上げた作品。作者の忍耐力する感じる。そして面白い。小説にしてこの値段。すべてがチャレンジである。