「狐闇」 北森鴻

狐闇 (講談社文庫)

狐闇 (講談社文庫)

まずこの作品に出会えたことに感謝。宇佐見陶子は特別なんですね、民俗学者の蓮丈那智も骨董屋・雅蘭堂主人の越名集治もサブキャラにしてしまうぐらいに。本当の面白みを味わうには先にそれぞれのシリーズを読んでおく必要があります。
久しぶりに、読んだ後に書く言葉が見つからないぐらいに素晴らしい作品だった。陶子が持つ弱さと芯の強さが周囲を巻き込み、やがてチームとして戦う。信用はしていなくても信頼はあり、やがて読み手にも伝わるグルーヴ感が生まれる。陶子は旗師として致命的なダメージを受けるが最後には勝利をものにする。でも本当は誰も勝利していないのではないか。
ふと今は無き市川崑がこの作品を映像化したどうなるか、と考えてしまった。横溝正史金田一耕助シリーズよりも上回る「絵」が出来るのではないか。女優を本当に綺麗に撮る監督なので、陶子だけではなく那智も印象的な人物になるだろう。叶わぬ夢であるが。