「呼人」 野沢尚

呼人 (講談社文庫)

呼人 (講談社文庫)

「ステイ・ゴールド 」をイメージさせるような物語の序章。「ステイ・ゴールド 」は2006年に復活したと言え、封印されていた初期の作品なので野沢氏としてはただならぬ思いがあったのかも知れない。身体は12歳から成長しない呼人の視点から社会、家族、友情、恋愛と多岐に渡って表現される。また途中までは歴史的事実を巧みに埋め込み、読み手はまるで物語が事実のような錯覚さえも感じさせる手法を採っている。
他の野沢作品もそうであるが、常に「死」を感じさせる。「死」を意識することによる「生」を表現するためかも知れないが・・・・。この作品にはテロを通して愛や宗教観も描かれている。そう乱歩賞を逃した「魔笛」のモチーフが生きている。
後半に出てくる呼人のこのセリフは考えさせられる一言だった。
(「子供と大人の違いは何なのか」の答えとして)
「学習や経験じゃないことは確かだ。ぼくは十二歳のままでも、難しい勉強も吸収できたし、世間の荒波ってやつに揉まれて賢くもなった。ぼくは単なる十二歳の体つきをした大人なのかもしれないって思った時もある。でも違うんだ。ぼくには明日がいっぱいあるけど、大人の明日はだんだん少なくなっていく」