「メビウスレター」 北森鴻

メビウス・レター (講談社文庫)

メビウス・レター (講談社文庫)

野沢尚の作品を思わせるノベライズ的な作品である。しかしながら映像化するには誰を中心に描ければ良いかが課題となり、そのままではおそらく無理であろう。テーストを利用した映像作品が精一杯なのではないだろうか。学校で起きた事件を警察は自殺として処理するが、納得がいかない「ぼく」が真実に迫っていく姿を手紙で紡いでいく。決して読まれることが無い手紙だが、「ぼく」の思いがそこに語られる。手紙はいつしかある人を恐怖の過去へ導かせ、物語は螺旋階段のように展開していく。
ストーリー性があるところは北森鴻らしいが、全体的には他の作品とは違う印象を受ける。最後に読者を欺くところは、野沢尚の「眠れる森」に近いところがある。ただし、初期の作品だからか全体のまとまり感が不足しているところは否めない。