「緋友禅-旗師・冬狐堂」 北森鴻

緋友禅―旗師・冬狐堂

緋友禅―旗師・冬狐堂

旗師・宇佐見陶子が活躍する4つの物語。「陶鬼」と「「永久笑み」の少女」はミステリーというよりも「愛」をテーマにした小説に感じる。恋愛小説ではなく、こんな思いも「愛」でしょう、と言わんばかりに。しかもその思いは成就するわけではなく・・・・。陶子の過去を考えると陶子自身を浮かび上がらせるエピソードにもなっている。
「奇縁円空」は豪華な登場人物による中編のストーリー。銘木屋の大槻の過去が描かれ、その大槻も帰らぬ人となる。ストーリーもさることながら、著者の宗教観を感じる一作である。仏像を彫り続けることが修行で、円空に近づくあるいは超えるというよりもこの時代の円空そのものになるために仏像を彫り続ける。それはもう贋作とは違う境地である。
前半二作が「愛」であれば、後半二作は「執念」である。「作る」という執念が到達させた領域-そこに値を付け、売買で生計を立てる旗師・陶子はジレンマとの戦いの毎日であろう。