「アマゾンのロングテールは、二度笑う 「50年勝ち組企業」をつくる8つの戦略」 鈴木貴博

何気なく手にとった本書だが、非常によくまとまっている。最近の新書でありがちな付け焼刃的な内容ではなく、事例の選び方や考察、何と言っても文章がうまい。未読の方には是非お勧めの一冊である。
2006年の作品なのでタイトルだけを見るとやや陳腐化した感があるが、内容はアマゾンのことを書かれているいる訳ではなく、企業として戦略を考える上でどのようなポイントがあるかをスムーズに書いている。著者の一貫した考え方は「土俵の選び方こそが、戦略にとって最も重要なこと」であり、その土俵を見誤らないように事例を挙げている。
よく言われる「会社の寿命=30年」を、会社ではなく実は事業の寿命だ、と宣言し、事業の栄枯盛衰はあるもののうまく事業交代が出来れば会社の寿命を伸ばすことが出来ると提言している。
かつて国民総中流と言われた時代は終わりを告げ、上流・中流・下流の三階層が成立している。上流市場でビジネスを成功させるためには、次の3つのポイントを挙げている。

  1. 提供する・サービスが上流市場において強く支持されること
  2. 価格を中流の消費者が購入するものよりも高く維持すること
  3. 商品・サービスの提供にかかるコストが価格よりも十分に小さいこと

またこれからの企業間の繋がりをEUのような「疎結合」が有利だと主張する。ここでもポイントも3つ挙げ、

  1. お互いにつながることによるメリットを求める
  2. つながるといっても不用意に「密」につながらない
  3. 大きな仕組みを小さい仕組みに分割すること

とまとめている。

久しぶりに付箋を片手に読み進めたが、たくさんのキーワードをキャッチすることが出来た。その中でいくつかのキーワードの感想を書いてみると、
グリーン車に乗る人のマナーの悪さは、高価な商品を購入したことに伴う権利だと考えているようだ
グリーン車もそうであるが、飛行機のビジネスクラス席の着陸後の様子は非常に近いものがある。その前のエピソードにも出てくるが、「お金の使い方のキャリア」の有無がそうさせるのではないか。
・ボトム・オブ・ザ・ピラミッド市場の魅力
本来は低所得者層のマーケットを指すが、PCを持たない層の市場としての「着うたフル」が類似マーケットに感じる。
・何かを得ようとすれば、まず何かを捨てよ
とかく新しいサービスを考える際に既存のサービスに付加価値を加えることを考えがちであるが、まずそぎ落としてサービスの本質を見極めることからスタートする発想は目から鱗である。

おそらく文庫化される時にはタイトルが変更されるだろうが、間違いなく良いビジネス書である。